クロスメディア・マーケティングは、出版を通じて企業のマーケティング支援を行っています。一見、広告会社やコンサルティング会社に似た側面もありますが、法人事業部の伊藤誠一は「出版社だからこそできる支援」があると語ります。
企業の課題を的確に捉え、制作から発信まで一貫して行うことで、お客様の想いを的確に届ける施策が可能になります。ただし、企業の意向だけを反映した本は読者に届きません。企業メッセージと読者インサイトの両立を目指し、読者にとって価値ある本をどうつくるのか。その考えを聞きました。
私が所属している法人事業部では、企業のマーケティング支援を行っています。マーケティングには、広告、PR、SP、イベント、SNSなどさまざまな方法があります。その中から、「出版」を選択肢の一つとしてお客様に提案しています。書籍を通して、企業やサービスをブランディングする方法です。
クロスメディアではクリエイティブな内容や企業の経営者によるものなど、先進的なテーマを扱う書籍が多く出版されています。そうしたイメージに合わせ、コンサルティングや人材ビジネスの企業、ITベンチャーなどにご提案することが多くなっています。
私たちが扱うのは書籍ですが、お客様の課題を理解し、解決策を提案するという点では、広告会社やコンサルティング会社に近い側面もあります。
ただし、広告会社は主にテレビや新聞などの枠を販売するビジネスで、コンサル会社は戦略提案までが中心です。一方、私たちは本の企画・制作からマーケティングまで自社で一貫して担えるため、お客様の想いをそのまま形にしやすいという強みがあります。
特にB2B領域では、強いプレーヤーが少なく、私たちには大きなチャンスがあります。私自身、広告業界から転職してきたのも、出版社の立場からこの領域に貢献できる可能性を感じたからです。同じように見えるビジネスでも、この自走力の違いは大きいと感じています。
当社は成長ベンチャーとして、今後さらに市場を広げる必要があります。そのため法人事業部では、新規開拓に力を入れています。出版の頻度は1~2年に1回程度と低いため、紹介やリピートだけではスピードが追いつきません。
新規開拓には、Web経由の問い合わせによる「インバウンド」と、こちらから提案する「アウトバウンド」があります。特に後者では、日々の情報収集をもとに出版がフィットしそうな企業を見極め、クロスメディアの強みや編集力をわかりやすく伝えることが重要です。実績や短納期メソッド、重版率など具体的な事例を交えながら訴求しています。
また、相手によって伝える視点や論点を変える必要があります。経営者と担当者では関心が異なり、出版に興味を持った背景によって提案すべき内容も変わるからです。限られた面談の中で「なぜ出版したいのか」を聞き出すことが信頼関係の第一歩になります。
法人事業部の仕事には、相手企業の立場や業界を理解し、背景にある意図を汲み取る力が求められます。好奇心があり、学ぶことを楽しめる人が向いているでしょう。出版に関心のある企業は魅力的な経営者が多く、多様なビジネスと出会える点も、この仕事ならではの醍醐味です。
書籍の制作過程では、出版を決めていただく前に企画書を提出します。お客様について事前に調べたり、話を聞いたりして、どのような本を使ってどのようなプロモーションをしたいのかをすり合わせていきます。企画書は営業が作成します。PM室や編集部とブレインストーミングしてまとめていきます。
そして、お客様の同意を得られたら、担当編集者を含めて改めて詳細な打合せを行い、実施企画を作成します。そこからはメインの動きを編集者に任せ、取材、原稿作成を進めていくことになります。しかし、当社の営業はお客様と編集者を繋いで終わりではなく、プロデューサーとして、プロジェクトが円滑に進むように最終的な納品まで伴走するスタイルを取っています。
書籍をつくる過程で大切なことは、お客様にとって本当に価値のあるアウトプットを出すことです。基本的には、編集者の知見をもとに本づくりをリードしていくのですが、クライアント案件である以上、お客様の意向を取り入れることは必須条件です。
それを前提に、営業はお客様に寄り添い、お客様の要望を編集者に伝え、本に反映させていきます。一方で、編集者は読者寄りの視点を持っています。最終的に読者に広く届ける本をつくるための設計は、編集者に任せています。
このようにすることで、お客様の伝えたいメッセージと、読者が読みたい内容(読者インサイト)を両立させた本をつくることができます。お客様は自分の言いたいことをそのまま載せて本をつくるのではなく、どのように読者に届くのか、どうすれば価値ある本になるのかを考えてくれる企業を求めているはずです。その双方を成立させる「両利き」の視点でプロジェクトを推進することが、営業の役割です。
お客様に満足していただける本を世の中に出せた時、そしてその本が企業の成長につながった時に、大きな達成感を感じます。感謝の言葉をいただけた瞬間は、何よりうれしいです。
受注から刊行まで半年以上かかることも多く、共に取り組んだ過程でお客様との強い信頼関係が生まれることもあります。刊行後も関係が続いていくのが、この仕事の魅力のひとつです。
さらに、本が読者の人生にポジティブな影響を与える可能性がある点も、出版という仕事の社会的意義だと感じています。
マーケティングの打ち手は無数にありますが、特に「伝えることが苦手な会社」にこそ、私たちのソリューションがフィットします。提案先は、成長意欲のある“いい会社”が多く、そうした企業と出会えるのは、出版社としての独自性や、これまで築いてきたブランド力があるからです。
今後は書籍にとどまらず、サービスの幅を広げていく方針です。クロスメディアの編集力と言語化力を武器に、言葉で価値を生み出す仕事をしていきたいと思っています。